束田研究室の研究内容のご案内|九州大学 稲盛フロンティア研究センター 先端生命情報研究部門 束田研究室

  • サイトマップ
稲盛フロンティア研究センター 先端生命情報研究部門 九州大学 束田研究室

研究紹介

生命情報(遺伝情報:ゲノム)
 生命の基本単位は細胞であり、我々ヒトは200−400種類・60兆個の細胞から形成されています。細胞は核酸・タンパク質・脂質・糖質といった生体高分子およびその複合体から構成されており、生命活動は生体高分子の活動によるものです。生命情報の一つである遺伝情報は、そのほとんどをDNAに保存しており、DNA上の全ての遺伝情報(塩基配列)をゲノムと呼びます。分子生物学の基本原則となる概念「セントラルドグマ」では、DNA上の遺伝情報はRNAそしてタンパク質へと一方向的に伝達されます。DNAの情報は、この伝達過程で細胞における構造や機能に変換され(遺伝子発現)、生命活動を担っています。

 このような観点から、ゲノムを生命の基本設計図として捉え、ある生物種の全ゲノム構造を塩基レベルで決定し、遺伝情報の全体像から生命を理解するゲノム計画が行われてきました。2003年に解読完了が宣言されたヒトゲノム計画では、ヒトのゲノム31億塩基対のうち、ユークロマチン領域にある29億塩基対の99%を解読し、2004年に最終論文が発表されました。生命現象の理解が飛躍的に進展することが期待されたゲノム計画ですが、解析が進むと生命現象は想像以上に複雑であることが分かってきました。ゲノムサイズと遺伝子数は比例せず、それらは生命の複雑さとも比例しないことが分かりました。また、ゲノムはタンパク質をコードするコーディング領域とそれ以外の非コード領域に分けられますが、非コード領域の割合は生物種により異なり、ヒトゲノムではその割合が98%にも上ることが分かりました。これらの結果は、生物種の違いを生み出すのは遺伝子だけではなく、その使い方であり、これは生命の複雑さや進化にも関与しているということを示唆するものでした。

遺伝子の使い方(エピジェネティクス)
 近年、遺伝子の使い方を調節する仕組みとして注目されているのが「エピジェネティクス」です。ゲノムの持つ遺伝情報の発現は、塩基配列と転写装置だけで制御されている訳ではなく、エピジェネティクスと呼ばれるDNAとヒストンなどのタンパク質から構成されるクロマチンの化学的・構造的な修飾による制御も受けており、その遺伝子発現の多様性を生み出す仕組みは生命現象を操る新たなドグマと言えます。エピジェネティクスを制御する主要なメカニズムとしてクロマチンの構造変換があり、これまでその制御機構には、クロマチンの化学修飾(ヒストンの翻訳後修飾・DNAのメチル化)・ATP依存的なクロマチン構造変換・ヒストンバリアント・非コードRNAによるものが考えられています。DNA上の全ての遺伝情報(塩基配列)をゲノムと呼ぶのに対し、ゲノム機能を制御・管理するゲノム上のこれらさまざまな修飾の総体はエピゲノムと呼ばれ、「遺伝情報の使い方に関する情報」であると言えます。

全能性の分子基盤・ゲノムリプログラミング機構
 エピジェネティクスの重要性を説明する生命現象に多細胞生物の個体発生・細胞分化があります。多細胞生物の個体を構成する多様な細胞は、免疫系の細胞を除きゲノム情報が全て同一です。同一のゲノムであるにも関わらず、多様な細胞が異なる表現型や機能を有するのは、同一ゲノムからの異なる遺伝子発現状態によるものです。そして、同一ゲノムから遺伝子発現の多様性を生み出している仕組みがエピジェネティクスです。多細胞生物の発生過程では、細胞の分化にともないゲノム機能を制御・管理するエピゲノムが細胞系譜ごとに誘導・確立され、その後「細胞記憶」として安定に維持・継承されます。種々の細胞は細胞記憶により規定され、それぞれの役割に応じて機能することで個体の恒常性を担っています。そのため、細胞記憶を失うようなエピゲノム異常が生じると、細胞はそれぞれの役割を果たすことが出来ず、個体の恒常性は破綻し、さまざまな疾病が発症します。

 細胞の分化過程で細胞系譜ごとに確立されたエピゲノムが、細胞系譜を遡って書き換えられたり、別の細胞系譜のエピゲノムに書き換えられたりすることは、生体内ではほとんどありません。しかし、分化した細胞の一つである配偶子は、受精後にゲノムリプログラミングと呼ばれるエピゲノムのダイナミックな書き換えを伴うプロセスを経て、高度に最終分化した細胞から未分化の全能性細胞へと変化します。ゲノムリプログラミングでは、配偶子の受精後の短期間に古いエピゲノムの消去と新しいエピゲノムの誘導・確立が行なわれ、細胞が自律的に一個体を形成する能力である全能性が獲得されるのです。

 当研究室では、「全能性を規定する分子基盤とはどのようなものか?」、「ゲノムリプログラミングではどのようにして分化した細胞から全能性の分子基盤を誘導・確立させるのか?」という問いに対して、エピジェネティクス・エピゲノムを中心とした観点から取り組むことで、生体内で用いられている遺伝子の使い方に関する情報の制御機構を理解し、遺伝子発現の人為的な制御法の開発を目指しています。


国立大学法人九州大学 稲盛フロンティア研究センター先端生命情報研究部門 〒819-0395 福岡市西区元岡744